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頼もしき隣人 能勢克男反ファシズム統一戦線派のあしあと

井上 史

大学教授、反ファシズム新聞『土曜日』の発行・執筆者、生活協同組合の先覚者、弁護士など多くの顔をもつ能勢克男。戦前に治安維持法違反で服役、その経験から人民を苦しめた「悪法」は「いく度でも、くりかえし、おこって来る」と社会に警告し続けた。この危機感が法律家としての出発点となり、戦後は人権擁護と表現の自由を守る弁護活動に力を注ぐ一方、人々が互いに支え合う「頼もしき隣人」となる社会を目指して、生協運動にも尽力した。様々な資料から彼の足跡をたどり、生涯にわたる活動とその根底にある抵抗の精神を描き出す。知られざる能勢克男の初の評伝。

『検証 治安維持法』の著者、荻野富士夫氏推薦……「反ファシズム新聞『土曜日』、生協運動、乳幼児保護雑誌等にかかわり、松川事件やわいせつ裁判の弁護を通じて“人民の弁護士”(羽仁五郎評)を貫いた能勢克男。その生涯の根底にある治安維持法との闘いを鮮明に探る力作。」

序 章 能勢克男を追いかけて             
1能勢克男と治安維持法一〇〇年 /2能勢克男について/3「田原和郎資料」「能勢克男関係資料」について/4各章について

第1章 民法物権論とゲノッセンシャフト
第1節 民法物権論の世界
1民法研究者として/2「共有」と「総有」/3ゲノッセンシャフトをめぐる師弟/4末弘厳太郎の農村法律問題/5「大学拡張運動」と「判例研究会」

第2節 ゲノッセンシャフト、または「榎」のその後
1ゲノッセンシャフト理論の矛盾と可能性/2『法律学辞典』と『法律学小辞典』/3「羽仁行」について/4能勢家の榎

●コラム 随想「父母の宗教とその感化」

第2章 下鴨五人娘 
第1節 能勢道子を中心に
1妹・道子の視点 「小さき芽の会」/2林てるの死

第2節 「下鴨五人娘」の集結
1同志社消費組合から京都家庭消費組合へ/2村田たきの死/3「女子大的高踏」の限界から実践へ/4「六・二〇事件」/5その後の「下鴨五人娘」

●コラム 民芸のわかれ 92

第3章 京都家庭消費組合をめぐる諸相と能勢克男
第1節 田原和郎資料
1「市民生協の拠点を京都に」 /2安部磯雄から同志社労働者ミッションまで

第2節 同志社労働者ミッションをめぐる諸相
1同志社労働者ミッションと農民組合/2同志社消費組合の本質/3同志社と総同盟、社会民衆党の動き

第3節 田原和郎「更迭」事件
1配給員同盟の要求/2友と師の忠告/3田原―能勢往復書簡
第4節 四幹部「除名処分」と無産政党合同問題
1吉田文治の介入/2高橋貞三の苦悩と「友の会」の離反/3能勢克男の〈ホーム/家庭〉観

●コラム 頼もしき隣人たらん

第4章 『母性愛』をめぐる権利と尊厳 その1 
第1節 『母性愛』とは
1忘れられた雑誌『母性愛』 /2『母性愛』の創刊/3西谷宗雄の「科学的育児法」と執筆陣/4初期『母性愛』を支えた京都家庭消費組合

第2節 「赤ん坊審査会」の明暗
1「赤ん坊審査会」の記述変遷/2川上貫一「もはや家庭のみに一任は不可能」

●コラム 映画と俳諧

第5章 『母性愛』をめぐる権利と尊厳 その2 
第1節 非常時下の『母性愛』
1「非常時日本」の危機感/2伊福部敬子というアナキズム/3童映社の映画「育児読本」/4「所有ではなく組織へ」/5「ばらの花しんぶん」

第2節 『母性愛』から『土曜日』を読む
1読者離れ/2堕胎禁止法をめぐる攻防/3カメラにむけた「人民戦線」のポーズ/4伊福部敬子への批判/5中井正一の『母性愛』と『土曜日』

●コラム 『疏水』と『かぐや姫』

第6章 松川事件、「大逆事件」 
第1節 松川事件裁判弁護団のひとりとして
1「嵐の中の港」/2「そもそも統一戦線とは」

第2節 「大逆事件」再審請求
1 謎の男性/2「大逆事件」五〇年/3「大逆紀行」/4森近運平への共感/5請求棄却、交通事故

第7章 「国貞」わいせつ裁判 
第1節 「文藝」と「わいせつ」と「裁判」
1『文藝・わいせつ・裁判』の出版/2『チャタレー夫人の恋人』

第2節 「国貞」わいせつ裁判の意義
1「国貞」裁判の経過/2「わいせつ」と「表現の自由」/3「表現の自由」の弁護士たち/4「門戸は常に開かれねばならない」

●コラム 岡田正三と女性教養の会

第8章 能勢克男と京都プロレタリア文学運動史 
第1節 プロレタリア文学時代
1「雑誌をつくりましょう」/2『(第二次)土よう日』/3「しんぶん 世間」/4科学の時代の『ゆらぎ』/5「下界の景色」の謎

第2節 『土曜日』の再出発
1第三次『土曜日』/2『新しい人』/3 京都プロレタリア文学運動史と能勢克男

●コラム 羽仁五郎と『東と西と』

第9章 「山科日記」の完成 
第1節 治安維持法三部作
1「霖雨」と「地獄のさた」/2「山科日記」/3梯明秀『戦後精神の探究―告白の書』/4『暗い絵』を読む/5「山科日記」の完成

第2節 「表現の自由」がまもる人間の尊厳
1「枯れぬ雑誌」の系譜/2「現れたところがすべて」/3 反・転向声明書
終 章 隣人、能勢克男

あとがき
参考文献

著者について

京都生まれ。同志社大学文学部文学研究科修了。新聞社、編集プロダクション勤務の後、生協運動史編纂などに従事。編著に『キネマ/新聞/カフェー――大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代』(中村勝著、ヘウレーカ)、『待つ間』(井上とし著、ドメス出版)、共編著に『与謝野晶子を学ぶ人のために』(世界思想社)、『大学の協同を紡ぐ 京都の大学生協』(コープ出版)などがある。

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装丁:上野かおる

2026年1月15日・刊 定価:3,000円+税 368ページ ISBN: 978-4-909753-25-0 並製