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少年と罪事件は何を問いかけるのか

中日新聞社会部 編

社会を震撼とさせた20以上の重大少年事件の当事者に丹念に取材し、描き出した事件の背景とその後。そこから見えてくるものとは?

神戸連続児童殺傷事件から20年あまり。いまだ少年への憧れを隠さない子どもがいる。その一人、名古屋大学元学生は知人女性を自宅アパートで殺害、高校時代には同級生にタリウムを飲ませた罪で無期懲役となった。

「人を殺してみたかった」。

少年Aも元名大生もそう口にした。だが社会はそんな少年たちの心の闇に正面から向き合ってきただろうか――。

社会を震撼とさせた重大少年事件の加害者、被害者家族、司法関係者などを丹念に取材。事件の背景や加害少年たちの内面に迫ると共に、被害者家族の悲しみと苦しみ、加害者家族の過酷な現実を描き出した、渾身のルポルタージュ。少年法の適用年齢引き下げの議論が本格化するなか、少年事件の実相を知るために欠かせない一冊。

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目次

まえがき

3

第1部 戦後史に残る2つの少年事件

第1章 「A」、20年
1 自身の不遇を十四歳の凶行に重ね/2 傾倒の日々を公言する少女/3 「透明な存在」捨てた/4 変化した「疲れた子ども」/5 心の深手、理解と疑問/6 自身に負けた敗残者/番外編 妙な少年、極秘マーク―刑事部長・深草雅利氏の証言から

interview 雨宮処凛●世界との距離を縮め、Aと決別/土師守●厳罰化より適正化を

第2章 木曽川・長良川連続リンチ殺人事件
1 少年法の壁、遺族置き去り/2 寂しさ抱える「ええ子」/3「居場所」を失い転落/4 集団心理、引けず凶行/5 反省願いつつ墓を探す/6 議論尽くし、全員を極刑に

topics  戦後の少年事件の変化と特徴

第2部 ネットの魔力

第3章 翻弄される少年たち
1 十一歳の殺人、漂う偶像/2 言葉の暴力、続く立件/3 カネと注目、求めた末/4 安直な動機、高い代償/5 驚く研究力、捜査後手/6 匿名の攻撃、実害が次々と/7 「答え」は現実の中にこそ

第4章 ライン殺人事件
1 引けぬ応酬、命を奪う/2 侵入許せず、攻撃が加速/3 手軽な交流、共犯招く

interview  スマイリーキクチ●本当の正義は匿名で人をたたかない/土井隆義●居場所を求める「拡張現実」

topics  ネットと少年事件の変遷

第3部 加害者家族、被害者家族             

第5章 ある「通り魔殺人」から
1 日常一変、絶望と指弾/2 挫折、孤独、過去を見つめて/3 償うため、一緒に動機を探す

第6章 さまよう家族
1 親の責任を問うために/2 なぜ隠した、親友の悔い/3 発達障害、光明求めて/4 許せない、けれど会う/5 思い上がり、叱り続け/6 永山の教訓、いまこそ

interview  阿部恭子●子どものSOSを受け止めて

topics  加害者家族からの発信/少年事件の司法手続き

第4部 更生を阻むもの、支えるもの

第7章 塀の中へ再び
1 更生の道、なぜ捨てた/2 刑罰の場、育たぬ自覚/3 変わるために支えが必要/4 居場所は自立への一歩/5 謝罪に導く仮釈放を

topics  重大な少年事件の再犯率/報道は実名か、匿名か

interview  田島泰彦●実名は大事な情報。事件ごとに慎重判断を

第8章 更生への道
1 分岐点で思う亡き友/2 我慢の先に未来はある/3 給料の重み知り、「受け子」を悔いる/4 孤立させず、雇い守る/5 信じてくれた人を胸に

第9章 生と死の境界で
1 償いきれぬ苦悩残し/2 許されずとも続ける/3 生きて命と向き合う

10章 少年法改正議論を考える
1 更生か厳罰か、揺れ続け/2 世論や被害者感情配慮、四度の改正

interview  薬丸岳●元少年とどう向き合うのか。『友罪』で周囲の人物描く/武藤杜夫●少年院を日本一の学校に。「だめな集まり」の偏見なくす

第5部 元名大生事件

第11章 元名大生は何を語ったか――初公判から判決まで/

第12章 解明されなかった闇
衝撃/支援/更生

special report 私たちは事件から何を学ぶか 

元名大生事件 判決要旨

終 章 取材ノートから

大切な「よりどころ」の確保/被害者の存在を忘れない/「償いの一歩」信じたい/もし、わが子だったら……/答えが出せないまま/「異常な少女の異常な事件」で片づけないために/見えなかった「闇」

あとがき

著者について

「新愛知」と「名古屋新聞」を前身に、「中部日本新聞」として1942(昭和17)年創刊。中日新聞(名古屋本社、東海本社)、東京新聞(東京本社)、北陸中日新聞(北陸本社)などを合わせ、348万部を発行している。大阪、岐阜、福井に支社、取材拠点となる総支局・通信部は国内170か所、海外15か所にある。名古屋本社社会部には56人(2018年9月現在)が所属し、愛知県警、愛知県庁、名古屋市役所、司法の取材担当記者のほか、幅広いフィールドで連載企画などに取り組む遊軍、大学や病院を取材する医療科学班などで構成している。中日新聞社会部としての主な編著に『日米同盟と原発 隠された核の戦後史』『君臨する原発 どこまで犠牲を払うのか』(東京新聞出版局)、『祖父たちの告白 太平洋戦争70年目の真実』(中日新聞社)、『新貧乏物語 しのび寄る貧困の現場から』(明石書店)がある。
少年と罪 事件は何を問いかけるのか

少年と罪 事件は何を問いかけるのか

中日新聞社会部 編

装丁:國枝達也

2018年10月8日・刊 定価:1,600円+税 272ページ ISBN: 978-4-909753-00-7 四六判・並製

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