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いかにして抹殺の〈思想〉は引き寄せられたか相模原殺傷事件と戦争・優生思想・精神医学

高岡 健

それは〈思想〉なのか、妄想なのか――。

相模原殺傷事件をめぐり数々の議論がなされ、論考が発表されてきたが、本書は、植松の主張を真正面から〈思想〉として捉え、分析しているという点で他に類をみない。具体的には、植松の主張である「大麻を〈地球の奇跡〉とよび、必要性を訴えていること」「文面上は、戦争に反対していること」「障害者の殺害を安楽死という言葉をもちいて宣言していること」の3点を手がかりに考察。第一次世界大戦前後から現在に至るまでの政治、社会、精神医学分野での研究を参照し、なぜ彼がそう主張するに至ったか、その構造を解明する。

第一部 相模原殺傷事件の〈思想〉

序 章 相模原事件が問いかけるもの

事件の流れと〈思想〉 /三つの論点 /措置入院から退院までの経緯 /措置入院制度強化をめざす法改正の動き/長期収容施設か地域移行か /植松の示す人間の定義と「秩序」 /植松は戦争に反対している /大麻支持、反タバコ、反精神薬

第一章 〈思想〉の見取り図――大麻・戦争・障害者殺害

植松の〈思想〉とヒトラーの思想 /大麻解禁の意図 /スピリチュアルとエコロジー /ファシズムと戦争 /トランプは〈リベラル〉の政治的交代者 /反ユダヤ主義と障害者殺しは別物 /家族に対する「恩恵」としての安楽死 /「安倍晋三様のお耳に」とは何か

第二章 いかにして植松聖は〈思想〉を引き寄せたか

植松聖の個人精神病理 /行動とイデオロギーを引き寄せるモメント /軍隊と徴兵制を引き寄せるモメント /美としての軍隊 /国民精神形成の戦争と現実の戦争との乖離 /植松が引き寄せたイデオロギー /植松聖にとっての人種問題

第二部 優生思想と戦争

第三章 優生思想の精神医学

植松の〈思想〉は優生思想か? /イギリスとアメリカの優生思想 /北欧の優生思想 /英米の優生思想とドイツの優生思想の共通点 /優生思想の日本への輸入 /中絶禁止法として機能した国民優生法 /優生保護法への道 /優生保護法の成立と改正 /一九七〇年代の優生保護法改正反対闘争 /岐阜大学胎児解剖実験 /優生保護法に対する日本精神神経学会の意見 /母体保護法へ /新型出生前診断に対する危惧

第四章 戦争の精神医学

第一次世界大戦とフロイト /戦争を遠ざける視点を堅持していたフロイト/第二次世界大戦とドイツ精神医学 /ナチスの優生思想と反タバコキャンペーン /ベトナム戦争とアメリカ精神医学 /精神医学は戦争から手を引くべきときに来ている

第五章 国家意思・戦争・精神医学――主に日本の場合

第二次世界大戦で日本の軍事精神医学が果たした役割 /国家意思を体現した精神科医 /若き神谷美恵子 /現在の日本の民衆は戦争を求める必然性を持っていない /日本の殺人心理学 /自衛隊と自殺 /反-軍事精神医学

第三部 イデオロギーと精神医学

第六章 相模原殺傷事件の倫理学――社会・イデオロギー・精神病理学
平常と異常の境界は明確か /連合赤軍事件 /ナチスによるT4作戦・人体実験・ユダヤ人絶滅収容所 /ノルウェー連続テロ事件 /事例の補足――シュレーバー /ナチズムが定着するまでの機序 /イデオロギーと結合しても行動化しない場合 /まとめと補足――トランプ米大統領をめぐる言説

終章 戦争と福祉国家の逆説――相模原殺傷事件の影
暴かれたアスペルガーとナチスとの関係 /情性欠乏というレッテル /役に立つ子どもと立たない子どもはいかに分類されたか /戦争と福祉国家の逆説 /再び相模原殺傷事件の〈思想〉について /優生思想と戦争 /イデオロギーと行動と精神医学

著者について

高岡健(たかおか・けん) 1953年生まれ。精神科医。岐阜大学医学部卒。岐阜赤十字病院精神科部長、岐阜大学医学部精神病理学分野准教授などを経て、現在、岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター。自閉スペクトラム症の臨床研究、少年事件の精神鑑定、不登校・ひきこもりの臨床社会的研究などに取り組む。日本児童青年精神医学会理事。雑誌『精神医療』(編集=「精神医療」編集委員会、発行批評社)編集委員。主な著書に『発達障害は少年事件を引き起こさない』『精神鑑定とは何か』(ともに明石書店)、『やさしい発達障害論』(批評社)、『自閉症論の原点』(雲母書房)など多数。
いかにして抹殺の〈思想〉は引き寄せられたか 相模原殺傷事件と戦争・優生思想・精神医学

いかにして抹殺の〈思想〉は引き寄せられたか 相模原殺傷事件と戦争・優生思想・精神医学

高岡 健

装丁:上野かおる

2019年5月7日・刊 定価:2,500円+税 216ページ ISBN: 978-4-909753-02-1 四六判・上製

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