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二・二六事件 引き裂かれた刻を越えて青年将校・対馬勝雄と妹たま

寺島英弥

あの朝、一発の銃弾に引き裂かれた兄と妹は、80余年の時を越えて再会できたであろうか。

1936年に起きた二・二六事件の蹶起将校として死刑判決が下され、銃殺された津軽出身の青年将校・対馬勝雄。

「非公開、弁護士なし、一審のみ」で進められた裁判は事件から約4カ月後に結審、17人に死刑判決が下され、処刑はわずか7日後に行われた。

7月12日の処刑の朝、勝雄の妹たまは処刑が執行されたという報を受け、代々木に向かった。そこには三角のテント群の遺体安置所が設けられていた。

あの朝から80余年、たまは兄のことを決して忘れまいと、遺された日記や手紙、写真を整理し『邦刀遺文』と名づけた大部の遺稿集としてまとめ、同時に兄の生と死のすべてをノートに記し続けた。

「兄の真実を伝えたい」と願う執念が遺したその『記憶のノート』と『邦刀遺文』、青年将校の遺族たちの証言などをもとに、東北の貧しい農村に育った兄と妹にとって二・二六事件とは何であったのかを描くノンフィクション。

まえがき

第一章 遺族の苦悩、声なき伝言

第一節 死の床で描いた処刑の朝

鬼気迫る絵/兄、対馬勝雄中尉/二・二六事件の真実とは/八三年前の光景を語る/供養続ける「仏心会」の人々/同じ境遇を背負った遺族/最後のあいさつの手紙/事件は終わっていない

第二節 デスマスクが語るもの

生々しい銃弾痕/事件後を生き抜いた同志/故郷天草へ思い抱き/農村窮乏への怒り/苦界の女性を救おうと/村中と再会、事件へ

第三節 殺した側、殺された側の歳月

内大臣、教育総監の襲撃計画/天草に届いた事件の報/悲嘆に暮れた家族/先人に導かれ仏心会代表に/父の惨殺を見た九歳の少女

第二章 貧しき暮らしと軍人

第一節 津軽の村に始まる一家

日露戦争の帰還兵/大火で消えた新生活の夢/長老から愛された秀才/父の反対を押し切り進学/父の大酒、母の苦労

第二節 勝雄、陸軍幼年学校へ

早く出世できる道を/独断の受験と合格通知/「町の星」になった勝雄/母も一念発起する/帰郷した「少年団」のリーダー/突飛で不可思議な行動/「斬れない刀は無意味」

第三節 廃校の憾み、少年に宿り

仙台陸軍幼年学校/青森発夜行列車の孤独/理想世界廃する理不尽/軍縮と軍人軽視の時代/新思潮と大衆運動の変革期/勝雄の秘密を覗いた妹/軍人は政治に口を出すべからず/宮城野原もとおくなりつヽ

第三章 津軽義民への道

第一節 楽園は小作争議に消え

無垢なる童心の帰る地/夏休みを過ごした古里/想像絶する貧しさ/巨大地主と小作人/車力村小作争議/「二・二六事件の原点」/少年時代の終わり

第二節 昭和四年 運命の出会い

姉タケの上京/「ひねくれるな はかなむな」/「国家改造」の気運/大岸頼好との面会/救国ノ名ニ於テ軍人ハ起ツ/昭和の激動の始まり

第三節 満州事変前夜

石原莞爾の登場/父も戦った「神話」の地/東北を呑み込んだ恐慌/弘前第三十一連隊の少尉/ロンドン軍縮条約に怒り/ケカツ鳥の啼く年/たまさん、職業婦人に/昭和恐慌下の東京/兄と青年将校運動/「蹶起」に焦がれて/勝雄、満州へ出征

第四章 分かれ道の兄妹

第一節 戦場と青年将校運動の間で

血気滲む挨拶状/戦いなき日々の鬱屈/「最も急進的なる革命家」/藤井斉の決意と死/燃えだすテロの季節/五・一五事件の衝撃/満州の激戦、募る焦燥

第二節 昭和維新胎動の中へ

山村に残る凶作の記憶/新聞が報じた農村の惨状/慰問袋と兵士たち/高粱畑の終わりなき戦い/無二の同志の戦死/共ニ死スヘキ部下カ後顧ノ憂ヲ

第三節 戦塵の彼方、見果てぬ夢

農の暮らしへの憧憬/先鋭化する小作争議/家族に満州移民を勧め/「生産権奉還」に共鳴/大凶作に続く三陸津波/死ぬことを当然と願う

第五章 家族の二・二六事件

第一節 束の間の幸福に吹く嵐

豊橋教導学校の教官に/維新運動への迸る情熱/「吉田松陰は此んな型の人では」/軍人の娘、千代子と結婚/陸軍大学校受験に意欲/相沢事件と予期せぬ不合格

第二節 蹶起 されど我が兵はおらず

新教育総監への反発/一変した学校での境遇/磯部から「決行」の報/妻と我が子と、永遠の別離/挫折した生徒動員の計画

第三節 面会所に集う最後の日々

新聞号外に兄の名前/わずか四日間、蹶起鎮圧/看守が伝えた死刑判決/傷心の両親上京、面会へ/素顔に戻った「兄」/イタコが語った勝雄の魂

エピローグ

あとがき

著者について

てらしま・ひでや ローカルジャーナリスト、尚絅学院大客員教授。 1957年、福島県相馬市生まれ。早稲田大学法学部卒。河北新報社編集委員、論説委員を経て2019年から現職。02~03年にフルブライト留学で渡米。東北の暮らし、農漁業、歴史などの連載企画を長く担当し、「こころの伏流水北の祈り」(新聞協会賞)、「オリザの環」(同)などに携わる。11年3月以来、東日本大震災、福島第一原発事故を取材。朝日新聞社「ジャーナリズム」、新潮社「Foresight」に被災地をめぐる論考、ルポを執筆中。ローカルメディア「TOHOKU360」同人。ホームページ「人と人をつなぐラボ」http://terashimahideya.com/ 著書に『シビック・ジャーナリズムの挑戦─コミュニティとつながる米国の地方紙』(日本評論社)、『地域メディアが地域を変える』(共著、日本経済評論社)、『被災地のジャーナリズム─東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて』『東日本大震災 希望の種をまく人びと』『福島第1原発事故7年 避難指示解除後を生きる─古里なお遠く、心いまだ癒えず』(以上、明石書店)、『悲から生をつむぐ─「河北新報」編集委員の震災記録300日』(講談社)他がある。
二・二六事件 引き裂かれた刻を越えて 青年将校・対馬勝雄と妹たま

二・二六事件 引き裂かれた刻を越えて 青年将校・対馬勝雄と妹たま

寺島英弥

装丁:図工ファイブ(末吉亮)

2021年10月12日・刊 定価:2,800円+税 272ページ ISBN: 9784909753113 上製

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